819.毎日新聞 2025年04月04日
<暮らしの中の科学>
「目で見えるほどのスピード」で伸びるタケ 成長の原動力の秘密
4/4(金) 5:30配信
竹林=奈良市で2025年3月27日、池田知広撮影(毎日新聞)
春の味覚といえばタケノコだ。だが軟らかな食感を楽しめる時期はすぐに過ぎ去り、立派なタケになってしまう。なぜタケノコの成長は早いのだろうか。
「他の植物とは異なる、特殊な成長エンジンがあるからです」。兵庫県立淡路景観園芸学校学長の柴田昌三・京都大名誉教授(竹類生態学)はそう語る。
タケノコは、タケの地下茎から出た「芽」だ。地表に顔を出した後は、皮が落ちて青くなり、タケになっていく。
柴田さんによると、急成長するのは、このタケノコとタケの境目の時期だという。国内で一般的に見られるマダケとモウソウチクは、24時間に約120センチも伸びた報告があり、植物全体の成長速度を比べても世界記録とされる。京都大の研究者が記録し、1963年に発表した。
1時間に5センチ伸びた計算で「目でも見えるくらいのスピード」(柴田さん)だ。数カ月で10~20メートルの高さまで一気に成長する。
なぜ、これほど勢いよく成長できるのか。その仕組みは、タケノコの「ちょうちん」のような構造にある。
タケノコの内部に見られる「ひだ」は、成長するとタケの節の部分になる。「折りたたまれていたちょうちんが、広がって伸びていくようなもの。ちょうちんの輪に当たる節の全てに、この時だけ働く『成長エンジン』となる細胞分裂が活発な部分があるのが特徴です」と柴田さんは説明する。
仮に節が50個あり、それぞれが1日2センチ伸びると仮定すると、タケ全体では1日1メートル伸びることになる。
他の植物は根や茎の先端のみに成長エンジン(成長点)がある。しかしタケは中が空洞のため、環状に、均等に伸びないと曲がってしまうのだ。
ところで、物事が次々と出てくることの例えとして「雨後の竹の子」という慣用句がある。雨が降った後のタケノコはやはり成長しやすいのか、柴田さんに聞いてみた。
「タケノコが勢いよく成長するためには、たくさんのエネルギーが必要です。前年から地下茎に養分を蓄えていますが、雨が降ることでその養分を使い、一気に伸びることができます。『雨後の竹の子』という昔の人たちの観察は、科学的にも正しいと言えるでしょう」【寺町六花】
最終更新:4/4(金) 5:30 毎日新聞