176.朝日新聞 夕刊 2019年04月04日
 「
(まだまだ勝手に関西遺産)京タケノコ 伝統のうまみ 破竹の勢い」

2019/4/4(木)

京タケノコ

 「びっくりするほどうまい」と評する人がいる京タケノコ。掘り出したばかりの京タケノコは、色白できれいな姿ですが、どんな味なんでしょう? 栽培の現場を訪ねました。

 「びっくりするほどうまい。梨みたいな甘みと食感や。日本一と思うで」。先日、取材で訪ねた京都・錦市場の老舗八百屋「かね松」の3代目、上田耕司さん(71)の言葉が忘れられない。京都市西京区で採れる京タケノコのことだ。気になる。掘るところを見てみたい、食べてみたい……。西京区へ向かった。


 まっすぐに立つ竹の合間に日の光がこぼれ、すがすがしい。ここは柴田勇さん(75)の竹林。足元の土はやわらかい。秋から冬にかけて、刈った下草や土をかぶせるように入れているからだ。大変な作業だが、「タケノコが大きく、やわらかく育つんです」と柴田さん。

 柴田さんが指さす地面が少しだけ盛り上がっている。表面を掘ると、タケノコの先が顔を出した。前日の雨で土が湿っていたが、乾いている時は地面がわずかにひび割れ、そのひび割れでタケノコを探すそうだ。

 土中にあるタケノコの周りを変わった形の鍬(くわ)で掘っていく。刃の部分が細く、70センチ以上ありそうなほど長い。「ホリ」と呼ばれる道具だ。刃先は平たく薄い。タケノコの周りを掘りつつ、付け根を見極め、そこを刃先でグッと押すようにして切り離す。タケノコがもこっと出てきた。

 柴田さんは暗いうちからライトを持って竹林に入り、午前8時半ごろには掘り終える。「朝掘り」のタケノコだ。中でも、塚原と呼ばれるこのあたりで掘られたタケノコは「塚原産」として知られ、かね松の上田さんは「1本1万円以上で販売することもあります」。

 竹にはそれぞれ墨で数字が書かれている。親竹として成長させた年をメモしたものだ。親竹がタケノコを「生む」のは6年目ぐらいまでといい、その後は切ってしまい、近くのタケノコを新たな親竹にするのだ。

 京都府農産課によると、近隣の長岡京市などでも稲わらや土を入れるなどして栽培しており、「京都式軟化栽培法」と呼ばれる。京都の孟宗竹(もうそうちく)は江戸時代ごろに移植されたとも言われ、粘質の土壌などの条件もあって良質なタケノコが生産されてきたという。

 ただ、「今年はいつものように採れるかどうか」。柴田さんの竹林から車で約5分のところに住む田原成一さん(81)は心配する。昨年の台風で倒れた竹が少なくないためだ。

 田原さんは、農家が掘り出したタケノコを取りまとめ、八百屋などに出荷する青果卸の一人。父の代からこの仕事を続けてきたが、高齢化が進んで竹林の世話が続けられなくなる農家も少なくないという。

 田原さんによると、出始めのタケノコは比較的小さいが、4月半ばごろには大きくなっているそうだ。「えぐみも少なく、米ぬかを入れずにゆがいてもうまい。中でも一番よいものは『白子』と呼ばれ、本当においしいですよ」

 取材は3月中旬。タケノコはまだ小さめだったが、ゆでて、わさびじょうゆだけで食べてみた。何とも言えないよい香りと甘み。十分にうまいけど、さらにおいしくなるのか。梨のような京タケノコ、ぜひ味わってみたいものです。(石村裕輔)

NPO法人「竹の学校」理事長 稲岡利春さん(70)

 竹の学校では、京都府長岡京市内の放置竹林を整備するとともに、タケノコ栽培の技術を保存・継承する活動をしています。わらや土を入れたり、より多くの養分をタケノコに届けるため親竹の先を折ったり、1年を通して多くの作業がありますが、定年退職後のメンバーも多く、楽しんでやってます。何よりの楽しみがタケノコ。知人に送ると本当に喜ばれます。塚原産のタケノコはよく知られていますが、長岡京のタケノコもおいしいですよ。