416.神戸新聞NEXT 2023年6月11日 
   
タケノコ目当てで植えられたけど
    …今では獣害の前線基地 淡路島の「放置竹林」、里山を丸のみ

2023年6月11日(日)9時30分 

住宅背後の丘陵を埋め尽くす竹林。山あいの集落に〝島〟のように竹林の固まりが点在していた=5月28日、洲本市安乎町(ドローンで撮影)(Copyright(C) 2023 神戸新聞社 All Rights Reserved.)

 兵庫県淡路島北部の山あいを縫うように走る神戸淡路鳴門自動車道。初夏の車窓からは、落葉時期を迎えて黄色みがかった葉を蓄えた竹林が、次々と目に飛び込んでくる。山や丘を丸ごとのみ込まんばかりの場所もあり、際限なく広がる光景に少しおののかされる。


 一般社団法人日本森林技術協会(東京)によると、2010年の島内の竹林面積は約2660ヘクタール。県は30年前の5倍に急拡大したと推計している。中でも島北部の淡路、洲本の2市は、それぞれ市面積に占める竹林の面積率が県内1、2位と、存在感が際立っている。

 県立大大学院・淡路景観園芸学校の藤原道郎教授(60)=植生学、景観生態学=によると、タケノコ目当てなどで人里近くに植えられていた竹林が、過疎・高齢化などで整備が滞り、「放置竹林」化。地下茎を通じてもともとなかった場所にも侵食した。


 竹林は人里近くに群生するため、獣害の〝前線基地〟になる。タケノコから約2カ月で高さ約20メートルの成木に急成長することから、日差しを遮って他の植物の成長を妨げる▽成木は10~15年ほどと寿命が短く、立ち枯れや倒木が発生しやすい-などの問題点も指摘される。


 竹林の拡大を防ぐには、間伐などの手入れが欠かせない。だが、タケノコや竹材は輸入品の増加で国産の需要は低迷し、人々の目が竹林に向く機会そのものが減った。そんな中、島内では近年、価格や技術の課題と向き合いながら、含まれる乳酸菌に着目した土壌改良剤、バイオマス燃料などへの利活用を模索する動きが官民で広がる。

 間伐した竹の若木を使ったメンマ生産事業に取り組む「あわじ里山プロジェクト」(洲本市)も、そうした団体の一つ。辻三奈代表(44)は「経済的な自立はまだだが、取り組みを続けることで、将来いい知恵が生まれるかもしれない。資源としての活用法を探り、竹林管理と地域の活性化につなげたい」と前を向く。(中西幸大)


【藤原道郎兵庫県立大大学院・淡路景観園芸学校教授の話】

 竹林管理には適度な間伐が大切。外縁部を伐採して拡大を防ぎ、内縁部は広葉樹周辺を整えて山の本来の植生を保つのが狙いだ。山の環境が良くなることで生物が豊かになり、木の密度を下げて見通しが良くなると、動物が隠れる場所も減る。

 全てを伐採する皆伐でも地下茎が残ると、かえってたくさん発芽する。するとササのようなやぶになり、光合成で力を得て次の年には結局、竹が生える。だから、皆伐する場合も毎年行う必要がある。

 竹は植物的には草と木の中間で、イネ科の一部に分類する学説が主流だ。日本で見られる大型の竹はモウソウチク、マダケ、ハチク。モウソウチク18世紀に中国から輸入され、タケノコ目当てに人々が各地に植えた。マダケは竹材利用のほか、タケノコも採れた。3種とも増えているが、モウソウチクが圧倒的な量だ。