432.京都新聞 2023年8月29日 WEB
水源を守り、琥珀色の美酒つくり育てる営み
天王山「サントリー天然水の森」を巡る
2023年8月29日 17:00
整備エリアを囲むシカの侵入防止柵を点検するスタッフ
適切な時期に腰の高さで竹を切った林
竹が枯れ、他の木々が生えてきている
入り口周辺の植栽を整備中のサントリー山崎蒸溜所
今秋のリニューアルを目指す(大阪府島本町)
炎天下、天王山の山中にある「サントリー天然水の森」を巡った。山崎蒸溜所(大阪府島本町)で使う地下水を育むエリアとして、大山崎町(京都府)と島本町の各整備エリアで動植物の調査や保全活動を行っている。
整備用の林道を車で走る。車窓から急斜面の谷間が見えた。竹が無造作に伸び、一部は折れて積み重なっている。日光は届かず、他の植物は育っていないようだ。
「天王山でも放置竹林は大きな問題です。手入れされなくなったタケノコ畑と、そこから広がった場所がある」と「天然水の森」のチーフスペシャリスト山田健さん(68)が調査を基に説明する。
竹は地下茎を年間3メートル伸ばし、2~3カ月で高さ20メートルに育つという。成長が早いものの地下茎は浅く、斜面が崩壊する恐れがある。
研究者らと連携した活動を通じ、九州を除く本州で竹を効率よく減らす方法が見つかったという。休眠中の冬に腰の高さで切ると、春に栄養を含んだ樹液が切り口から流れ出て枯れる。
天王山でも実施したエリアがあり、枯れた竹の周囲で他の若木が育っていた。
ただ、どこでも使える手法ではない。急斜面で一気に竹を減らすと、崩壊のリスクを高めてしまう。適切な場所と範囲で行う必要があるという。
京都と大阪の境界付近にあるウイスキー100周年の記念植樹エリアに着く。6月の催しで植えた苗木を守るため、一帯は背丈より高いシカの侵入防止柵で囲まれていた。
山田さんは「若い木はシカにとって格好のえさになる。関西ではシカの食害も深刻なんです」と強調する。
シカは口の届く範囲の植物を貪欲に食い尽くす。ササが無くなれば、そこで巣を作るウグイスやコマドリがいなくなる。天王山でも動植物にとって脅威になっているという。
放置竹林の拡大を食い止め、周辺に生えている種類の広葉樹や落葉樹の苗を植える。その若い木々をシカの食害から守り、成長させる。小学生が植樹する「カブトムシの森作り」も営まれていた。
息の長い取り組みに感心する一方、伐採して間もない場所の強い日差しに汗が噴き出す。酷暑でウイスキーづくりは大丈夫なのか。
「気候変動の影響は当然あると思う」とチーフブレンダーの福與伸二さん(62)は話す。
品質を維持する工夫として、暑くて樽(たる)の成分が原酒に出過ぎるなら、古い樽を使ったり、涼しい場所で貯蔵したりすることが考えられる。
一方、平均気温が何度か上昇したとしても与えられた環境と受け止め、ベストなウイスキーづくりを目指すという考え方もある。
これまでの100年間の技術や経験を基に、よりおいしいウイスキーづくりに日々取り組んでいる自負がある。「今日、蒸溜した原酒が50年後どうなるか。現在の50年ものより、確実においしくなっている。将来、口にする人がうらやましい」
水源を守り、琥珀(こはく)色の美酒をつくり育てる営みが、次の100年へと続いていく。=おわり