448.京都新聞 2023年10月10日 WEB版
   京都・向日の竹製ピンセットが売り上げ好調
 発注元は意外なハイテク産業

2023年10月10日 6:10 今口規子  

 
 電子部品をはさむ竹のピンセットや伝統の竹垣など、京都府乙訓地域で竹製品の需要が伸びている。新型コロナウイルス禍からの経済回復や、国連が達成を目指す持続可能な開発目標(SDGs)を背景に、竹製品が注目を集めている。

 竹工芸品の製造卸を手掛ける東洋竹工(向日市寺戸町)では昨秋ごろから、IC(集積回路)の基板を作るための竹のピンセットの受注が増えており、生産が追い付かない状況という。

 竹のピンセットには、磁気を帯びず、対象物を傷つけないといった利点がある。同社ではさらに、高圧の窯で蒸し焼きにする独自加工を加えることで、一定の電気を通す性質を持たせた。静電気を逃がすため、静電気放電で破壊される懸念のある電子部品を扱うことができる。環境への負荷が少なく、安価とあって、中国や台湾などにある日系企業の半導体工場で多く使われているという。

 工業製品ならではの厳密な規格を実現するのは、職人の技だ。職人歴15年の河上拓矢さん(42)=長岡京市=は5年前からピンセットを担当する。ピンセットの先端の幅は1~1・3ミリ。竹を削りながら調整する河上さんは「0・01ミリ単位まで目視で確認できる」と胸を張る。

 同社は来春、京都伝統工芸大学校を卒業する女性2人を社員に迎える。そのうちの1人、谷村和歌菜さん(22)=奈良県=は「日本に昔からある竹に魅力を感じている。サスティナブル(持続可能)な素材として注目されており、新しい商品も作りたい」と期待する。

 オリジナルを含め8種類の竹垣が散策路を彩る向日市の観光名所「竹の径(みち)」。そのうちの一つ、古墳をイメージした「古墳垣」は、竹垣専門店の長岡銘竹(大山崎町円明寺)が作る。

 古墳垣は、約4メートルの半円形。竹を細く割り、順番通りに芯に巻いていく。江戸時代の芸術家、本阿弥光悦の考案とも伝えられる「光悦寺垣」を応用した。長い割竹を作り、なめらかな曲線に仕上げるには、10年以上の修業が必要という。

 同店ではコロナ禍以降、個人宅での竹垣の需要が伸びている。「巣ごもり」で在宅時間が増えたことから、伝統の技術の素晴らしさが再認識されているという。

 同店は2020年に和歌山県の「アドベンチャーワールド」のジャイアントパンダが食べ残した竹を活用した指輪を開発し、話題になった。

 真下彰宏社長(46)は「最近は海外から竹垣作りを学びに来る人がいるなど、世界的に竹が脚光を浴びていると感じる。追い風が吹いている」と手応えを深めている。