667.朝日新聞 SDGs ACTION! 2024年8月10日
竹が過疎地を救う? 「竹害」を「竹益」に 大分大学教授の挑戦
8/10(土) 10:11配信
大分大学理工学部教授の衣本太郎さん
(大分大学提供)
竹の過剰な生育が地域社会に影響を及ぼしていることに着目し、竹から「次世代の素材」と期待される「セルロースナノファイバー」を抽出する技術を開発した衣本太郎さん。大分大学理工学部の教授として研究に取り組み、おおいたCELEENA(セレーナ)の代表取締役としても環境問題の解決と持続可能な資源の活用に取り組む。研究のきっかけから技術開発の過程、そして地域社会への貢献について聞いた。(聞き手 SDGs ACTION!編集部・池田美樹)
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衣本太郎(きぬもと・たろう)
京都大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。専門は化学。特にSDGsの達成とイノベーションの創出を目標に、電気化学・機能物質化学・無機材料化学を基盤とし、燃料電池・電池・グリーン水素製造・竹の素材化開発などの研究に取り組んでいる。大分大学理工学部附属先端技術・GX研究センター副センター長や減災・復興デザイン教育研究センターのほか、大分県環境審議会、大分市水素利活用協議会や地球温暖化対策おおいた市民会議の委員としても活動している。
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竹害」への気づきと研究の始まり
竹林の管理は大きな地域課題のひとつ
(ながたに振興協議会提供)
――竹からセルロースナノファイバーを抽出する技術に着目したきっかけや課題意識について教えてください。
私は大阪出身ですが、大学は京都で学び、その後、大分に赴任しました。その際、竹林が管理されずに放置されることで、倒れて道路や鉄路を塞いだり、住宅に倒れかかったりする状況を多く目にし、その危険性や環境問題に対する課題意識が芽生えました。
調べてみると、「竹害」という言葉があり、地域の高齢過疎化と関連していることもわかってきました。また、竹は非常に成長が速く、一度放置されると他の植物を圧倒し、生態系のバランスを崩す原因にもなります。これらの問題を見聞きして、解決できないかと考えるようになったのです。
そこで竹の過剰生育がもたらす自然環境、社会構造の変化への影響を、竹を活用することで抑制し、解決につなげるための研究を始めました。これが、竹からセルロースナノファイバーと呼ばれる次世代の素材を抽出する技術を開発するきっかけとなりました。
私たちが竹から抽出したセルロースナノファイバーは「CELEENA®」と名付け、登録商標として会社名の一部にもなっています。
――どのように研究を始めましたか。
大学構内の竹を自ら切り出して観察することから始めました。竹の構造とその特徴について調べ、自身で開発できる竹の新しい利用法を考えました。同時に、地域の竹林を訪れ、地元の人々と対話を重ねることで、竹林管理の現状や課題をより深く理解することができました。
環境問題や地域社会の課題解決においては、実際の現場での問題を直視することで、具体的な解決策が見えてきます。研究を机上のみで進めるのではなく、現地でのフィールドワークや関係する人々とコミュニケーションを取ることは不可欠で、新しい知見が得られ、自身の研究にフィードバックできたと感じています。
今も大分県豊後大野市長谷地区の「ながたに振興協議会」と連携して、竹林の管理や集落の活性化について意見交換しています。
試行錯誤の末に見つけた抽出技術と起業
竹と竹から製造されたCELEENA(右側)
(衣本さん提供)
――技術の開発に至る道のりを教えてください。
竹を利用する方法を模索するところから始まりました。私はもともと竹と無関係な燃料電池や水素の関連材料の研究をしていましたから、竹を燃料電池の部品の材料として使えないかと考えたのです。
燃料電池の一つに「固体高分子形」という燃料電池自動車に搭載されているタイプの電池があり、その中に炭素繊維が使われている部品があります。これを竹で作ろうと考えました。ただ、それには多くの克服すべき課題がありました。
最初の課題は、竹から繊維を取り出す方法を見つけることでした。しかし文献を調べても、戦時中の古いレポート程度しか見つからず、手探りの状態で基礎研究を始めました。まず大学の許可を得て、研究室の学生やスタッフと一緒に構内の竹を切り、繊維を取り出すための実験を繰り返しました。
試行錯誤の末、最適な条件を見つけ出し、効率的に繊維を取り出せるようになり、最終的に燃料電池の発電に成功しました。
この技術で特許を取得して、論文も書きましたが、さらに竹の利用法を広げるために、セルロースナノファイバーを取り出す研究も始めました。そのプロセスでも多くの挑戦がありましたが、最終的に安定した品質のセルロースナノファイバーを取り出すことができるようになり、独自プロセスで特許を取得しました。
――その後2021年に「おおいたCELEENA」というベンチャー起業を立ち上げられました。
竹からセルロースナノファイバーを取り出す技術の実用化について考えた時、私がもともと持っていた「社会課題を解決する」というポリシーを失わないために、他者に任せるのではなく、自身で起業する道を選びました。
技術の実用化と普及に自ら取り組むことで、環境問題の解決と持続可能な社会の実現に貢献したいと考えています。この決断は、私自身が社会課題に向き合い続けるための重要な一歩でした。
技術がもたらす環境保護と地域社会への貢献
大分県の竹と温泉水を使用したセルロースナノファイバー「温泉水CELEENA」を50%配合したジェル状の美容液「ビナセルセラム」
(おおいたCELEENA提供)
――CELEENAの活用方法について教えてください。
現在は、保湿性が高いというCELEENAの性質を活用して、豊後大野市の竹と大分県竹田市の温泉水を使用した素材を用いた美容液(ビナセルセラム)を商品化しています。私たちの製品を購入してもらえれば、間接的にではありますが、県内で竹林の管理をしている人々の活動に生かされるという循環が生まれます。
CELEENAに興味を持ってプラスチックの代替素材としての利用を検討している方もいます。私たちも環境負荷を減らすための新しい素材として提案しています。
CELEENAは軽量で強度が高いという特性を持っているため、航空機や建築材料などの分野でも活用が見込まれています。現在は試作段階ですが、包装材や自動車部品など、幅広い分野での応用も期待しています。
大分大学ではJAXA、静岡大学との共同研究で、宇宙で使用するための研究も進めており、おおいたCELEENAは素材提供をしています。
――今回実現した「竹からセルロースナノファイバーを抽出する技術」がもたらす環境や社会への影響や意義について、どう考えていますか。
竹からセルロースナノファイバーを抽出することは、竹の過剰生育による環境問題を抑制し、解決へのきっかけとなるだけでなく、持続可能な資源の活用にもつながります。竹は成長が速く、二酸化炭素を吸収するため、カーボンニュートラルの実現に役立つ素材としても期待されています。
竹の利用が促進されると同時に、竹林の管理が進めば、竹害進行の理由の一つである里山地域の高齢化や過疎化問題にも対処できる可能性があると考えています。
たとえば、竹を切って製品化することをビジネスにできれば、伐採・管理・加工に関わる雇用が生まれます。そのように人が集まるようになれば、集落が活性化し、さらに竹林の管理や環境保護が進むこととなり、好循環が生まれ、「竹害」を「竹益」に変えることができると考えています。
――今後の目標やビジョンについて教えてください。
研究を始めた当初からの思いでもあるのですが、「竹害」を「竹益」にすることが目標です。
私たちは竹からセルロースナノファイバー「CELEENA」を作りだし、製品化していますが、まだまだ普及していません。より多くの人にCELEENAを使ってもらってビジネスを成長させ、「竹害」を「竹益」にする好循環を生み出して、環境を守りながら地域社会に貢献したいと考えています。
今、豊後大野市の長谷地区と協力していますが、国内には高齢過疎化と竹害が連関して社会課題となっている地域が多くあります。
将来的には、持続可能な社会を実現するために、他の地域で活動している方々とも連携して、全国的に竹の管理と利用を促進し、竹害・放置竹林問題の解決に寄与できるようなモデルケースとしての役割を果たしていきたいと思っています。
朝日新聞社
8/10(土) 10:11配信 朝日新聞 SDGs ACTION!