693.南日本新聞 2024年9月22日
   山の「厄介者」が漁業の町を救う? 磯焼け進み減る資源
     …放置林の竹で海の環境を改善、新たな特産づくりに挑む 阿久根

9/22(日) 16:00配信 

船から海に投げ込まれる竹製のイカシバ=5月2日、阿久根市沖

竹の枝に産み付けられたイカの卵(阿久根市環境水産課提供)
 漁業の町として知られる鹿児島県阿久根市で近年、海藻がなくなる磯焼けが進み、特産のウニをはじめとする漁業資源の減少に悩まされている。そんな環境を改善しようと、従来は廃棄処分するしかなかった“厄介者”を活用する動きが広がってきた。海を守る助っ人となるか注目を集めている。

 5月初旬、阿久根新港周辺の海に、木の枝や竹の束が次々と沈められた。海藻の代わりにイカの産卵場所となる「イカシバ」だ。

 古くから漁に使われてきたが、投入した北さつま漁協青壮年部や市の目的は、産卵環境を整えて漁業資源を増やすこと。2008年から毎年、ウニ漁の繁忙期を終えたこの時期に取り組む。

 これまでの間伐材や雑木の枝といった材料に加え、今回初めて市内の放置竹林で伐採したコサンダケを使った。投入してすぐにイカが集まり、8日後には竹の枝葉にたくさんの卵が確認された。産卵期が終わる7月下旬に引き揚げるまで、代わる代わるイカが卵が産み付けたという。

 漁協などによると、竹のイカシバは卵が付くのは早いが葉が落ちるのも早いため、使用できる期間は短い。一方、木の枝は耐久性に優れるものの、イカが寄りつくのに時間がかかる。両者を混在させたことで、例年より効率よく産卵場所を提供できたとみられる。

■市内で調達

 放置竹林の竹でイカシバを作る案は、市の会合での林業関係者らの発言が発端だった。市内には所有者が高齢になって手入れができず、荒れたままの山や農地が増えているといい、「竹を伐採して販売する仕組みができないか」と市農政林務課の所崎慎也林務係長(44)は思案している。

 現在はイカシバの材料を市外で調達してくる漁師もいる。所崎係長は「市内で買うことができれば、林業の収入増につながり、イカが増えると地元の新たな名物になるのでは」と思い描く。肉食のイカは小魚を食べることから、「海藻を食べ尽くす魚を捕食してくれたら」と期待する声もある。

 ただ、同漁協の大戸徹管理部長(60)は来年度以降の竹の活用について、「検討したい」と慎重だ。一番の懸念は作業量が増えることだという。これまでは形のいい雑木の枝をそのまま使ってきたが、細いコサンダケは長さをそろえて束ね、乾燥を防ぐため水につけるなど、人手も手間もかかった。「すぐに使える形で提供してもらえるならありがたいのだが」

 一方で「地元の山で自然に生えたものなら、安心して使える」という思いもある。以前、大企業から「魚礁を提供したい」と申し入れがあったが、中身は使い古して廃棄された鉄くずなどだと分かり、断った経緯がある。「海を汚すわけにはいかない」との気持ちも強い。

■足元の資源

 今回の竹は山あいの田代地区の竹やぶを伐採した。無償提供した中野秀明さん(72)は「周囲は高齢者が多く、土地を使う予定もない人がほとんど。林業者や漁業者の役に立つならうれしい」と話す。だが、竹は硬いので草刈り機でも切りにくい上に、草のつるが絡みついたものも多く、やぶから運び出すことも容易ではなかった。作業の負担軽減が課題として残る。

 阿久根市の「たからのまちマネージャー」として林業部門の助言を行う長野麻子さん(52)=東京都=は「山の栄養が川から海に流れ込み、プランクトンを育てる。遠回りでも山や森を管理することが、海の環境改善につながる」と訴える。最近は足元の資源を見つめ直し、地域で活用する流れがあるとして、「現代のライフスタイルに合うよう工夫しながら進めてほしい」と話した。

南日本新聞 | 鹿児島

最終更新:9/22(日) 16:00 南日本新聞