660.NewsPicks +d 2024年7月26日
   起業から5年で右肩上がり 全国へ広がる「クラフトメンマ」の勝算とは?
     放置竹林問題を解決する美味しくて楽しい方法

7/26(金) 7:20配信 

 全国で深刻化する「放置竹林問題」を
 解決する糸口に
  宮崎県発ベンチャーの戦略を追います

江原太郎さん(写真提供:LOCAL BAMBOO)
「メンマづくり」を通して放置竹林問題の解決に取り組む宮崎県延岡市のベンチャー企業・LOCAL BAMBOO(ローカルバンブー)。

設立5年目にして確かな実績を上げ、メンマづくりの輪を全国各地に広げるなど存在感を示しています。急成長を可能にしたのは、自社のリソースに固執せず協業によってビジネスの輪を広げていく江原太郎代表の巧みな戦略でした。

【江原太郎(えばら・たろう) 】
宮崎県延岡市生まれ。東京農業大学を卒業後、都内最大級の屋上貸し菜園「都会の農園」で農園長を経験。
インドネシアの人材事業、環境省との有機農業の普及啓発事業、BBQ事業を経て2019年に宮崎に拠点を移し、“食べもの付き情報誌”の宮崎ひなた食べる通信をスタート。
2020年5月にLOCAL BAMBOO株式会社を設立。現在は延岡メンマのほか、複数の事業を手がける。

「都会と地方の中間」だからできたこと」

(写真提供:LOCAL BAMBOO)
2019年末、30歳を目前に故郷の延岡市にUターンしてローカルバンブーを設立し、放置竹林問題の解決策として、それまで捨て置かれていた幼竹(ようちく)を使った「延岡メンマ」を開発した江原さん。

「メンマの概念を変える」ことをコンセプトに誕生した延岡メンマは、ANA国際線ファーストクラスの機内食に採用されるなど高い評価を受け、地元の名産品としても定着しつつあります。

起業から5年、右肩上がりで会社を成長させてきた江原さんですが、ここに至るまでには紆余曲折のキャリアを経てきました。

高校卒業後、上京して東京農業大学に進学。東京の農業ベンチャーに就職し、お台場のビルの屋上農園の農園長を務めました。

その後、グループ会社に転籍してインドネシアで人材関連の事業を経験。独立後には農業分野を専門としたフリーランスとして、有機農業の啓発事業などにも従事したこともあります。江原さんはこう振り返ります。


SNSではメンマを使ったレシピの発信も
(写真提供:LOCAL BAMBOO)
江原「自分の経験としては、東京にいた10年間がやっぱり大きいですね。いつかは故郷の畑や山を継がなければとは思っていたのですが、その前に、明確な目的を持ったうえで修業ができたのはよかった。

営業やマーケティングの知識が身についたこともそうですし、いろいろな人とめぐり合えました。

『延岡メンマ』の開発にはデザイナーやコピーライター、フードスタイリストなどがチームとしてかかわっていますが、ほとんどが東京時代に知り合った同世代の仲間たちです」


(写真提供:LOCAL BAMBOO)
エシカル志向な都会の若者をターゲットにメンマを高価格帯の「ブランド」としてプロデュースし、EコマースやSNSを使った情報発信を駆使して売り込むという延岡メンマのコンセプトも、さまざまなビジネス経験を積んできたからこそ生まれた発想でした。

江原「自分は、都会と地方の中間にいるような存在だと思っています。地方には素晴らしい可能性があるけれど、それがうまく活用できずに埋もれてしまっていることも多い。

それらを、いまの商流に合わせたやり方で市場に出していくことで、結果を出せるということを示していきたい」

急成長のカギは「分業化」
ローカルバンブーが短期間で結果を出せた背景には、自社の持つリソースにこだわらず、「分業化」を徹底していることがあります。

たとえば、メンマの製造工程のうち、発酵や味付けなど専用の設備を要する2次工程については自社で工場を所有している福岡県糸島市の企業に委託しています。

また、幼竹から可食部分を切り出し、煮込んで塩漬けにする1次工程や、2次工程後の商品をパッケージに詰めて発送する作業は、いわゆる農福連携・林福連携(障害者の農業・林業分野での活躍を通じ、農業・林業経営の発展とともに、障害者の社会参画を実現する取り組み)として、延岡市内の障害者支援施設に委託しています。


(写真提供:LOCAL BAMBOO)
設立時に江原さん1人だった会社は、現在では10人ほどで運営していますが、アルバイトを除く全員が業務委託。東京都や佐賀県などからのリモート勤務で、公式サイトの運営や営業などに従事しています。

江原「ローカルバンブーとしての強みは、ワンストップでできる商品のプロデュースや、ブランディングの能力、あとは営業力です。製造工程などそれ以外の部分は、思い切って外部に任せることで、スピーディーな経営が実現できています。

私たちの目的はあくまで放置竹林問題の解決であって、自前のリソースを持つことや、会社の規模を拡大することではないからです」

「食育」カテゴリーで地元の学校給食にも採用
ANA国際線ファーストクラスの機内食に採用されたことでブランドとしての地位を確立した延岡メンマですが、もうひとつ、信頼獲得につながる動きを積み重ねていました。

給食のメニューとして、延岡市内の公立小中学校13校で採用されたのです。これを実現したのも、江原さんの営業力でした。

江原「各校の給食メニューの担当者に連絡して、地道に営業して回りました。竹は地方では厄介者扱いされていて、メンマが竹からできていることを知らない子どもたちも多い。

まずはおいしく食べて認知してもらって、食べることが地域の森や生産者のためになるということを知ってもらいたいと思っています。

メニューに採用された学校には私が直接うかがって、『食育』の一環として給食の時間の5~10分程度をいただき、メンマや放置竹林問題について講義をしています」


(写真提供:LOCAL BAMBOO)
給食への採用は直接の利益としては大きくありませんが、社会的な意義が大きいと江原さんは考えています。

それだけでなく、このように放置竹林問題の解決にフォーカスしてさまざまな活動を実践していくことで、頻繁にメディアに取り上げられるという「副産物」もあるといいます。

江原「ローカルバンブーの活動は、SDGs、地方創生、食育、起業、Uターンなど、いまの時代に合ったキーワードと非常に親和性が高い。プレスリリースにこうした要素を意図的に盛り込んでいることもあって、メディアも好意的に取り上げてくれるのだと思います。

私は広告よりも広報を重視していて、起業して以来、広告費用はいっさいかけていません。おカネを使えば広告は打てますが、効果は瞬間的なもの。

一方、広報は自分たち自身の長期的な活動によって育てていくことができますし、より持続的な効果が期待できます」


町田市との取り組み(写真提供:LOCAL BAMBOO)
全国8カ所で進む「メンマづくり」
巧みな情報発信力を生かしたローカルバンブーの取り組みが注目されたことで、いま全国各地でその知見を生かした取り組みが始まっています。

首都圏に位置しながら里山の放置竹林問題に悩まされていた東京都町田市は、2023年3月にローカルバンブーと包括的連携協定を締結。

メンマの生産からマーケティング、竹林の整備、里山を活用した取り組みの情報発信など、さまざまな面でノウハウを共有していくことになりました。


(写真提供:LOCAL BAMBOO)
これをきっかけに、全国各地の個人や企業から問い合わせが相次ぎ、現在では町田市に加え広島、佐賀、大分、熊本、鹿児島など全国8カ所で、ローカルバンブーの知見を生かしたメンマづくりの取り組みが始まっています。

一見すると、競合他社が増えていくともとれる流れですが、江原さんはメリットのほうを強調します。

江原「延岡メンマがまさにそうなのですが、地域の人々がその土地の素材を生かしてつくった『クラフトメンマ』は、その地域の人たちに愛されるもの。競合する心配はないと考えています。

むしろ、現在は市場の1%でしかない国産メンマのマーケットが広がって、全体として盛り上がっていくメリットのほうが大きい。地域ごとの味を食べ比べて、どっちもおいしいよね、という楽しみ方ができるようになればと思います」

竹からお菓子やお酒も…広がる挑戦
ローカルバンブーはいま、メンマ以外の新たな商品の開発に取り組んでいます。竹を燃やしてつくる竹炭を利用したお菓子や、竹で香りをつけたクラフトジンです。ここでも「分業化」の仕組みを活用し、県外の製菓メーカーや醸造所と連携して開発にあたっています。

新たな挑戦に踏み出す目的は、単なる事業拡大のためではありません。放置竹林問題の根本的な解決を考えたとき、メンマ以外の商品開発は避けて通れない道なのです。

江原「メンマの原料となる幼竹は1年のうちで4~5月のわずかな期間しか採れません。

収穫しやすいので森林整備の第一歩としてはピッタリですが、本来は成長し切った青竹や、枯れた竹、倒れた竹についても資源として活用する道を見つけて間引いていかないと、状態のいい竹林になりませんし、年間を通して事業を継続することもできません」


(写真提供:LOCAL BAMBOO)
江原「私がこれまでやってきたことの根本は、人に喜んでもらいたいということです。自分の商品を喜んで食べてもらうことは大好きですし、それで何かの課題が解決して、いい地域にしていけることがわかりました。

再現性のあるロールモデルとして、現在の取り組みをさらに発展させていけたらと思っています」


取材・文:小泉耕平
編集:鈴木毅(POWER NEWS)
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
最終更新:7/26(金) 7:20 NewsPicks +d